ある禅僧が、和尚と一緒に旅をしていました。
やがて山間の渓流に差し掛かると、豪雨のあとで渓流は氾濫し、腰まで浸かるほどの水量になっていました。
その渓流の手前で、綺麗な着物を着た若い娘が立ち往生をしていました。
和尚は
「さあ、私がおぶってあげるからつかまりなさい」
と言って、娘をおぶって渓流を渡してあげました。
そのあと二人の僧は黙々と歩き続けました。
弟子は、僧というものは女性に触れることを良しとしないのに、和尚がそのようなことをしたことに疑問を持ったまま歩いていました。
何度か和尚に問いただそうと思いしたが、どうしても聞くことができないまま歩き続けていきました。
その夜の宿になる寺に着き、寝床に入っても、弟子はそのことが一向に頭から離れません。
弟子はとうとう黙っていられなくなって、ついに和尚にこう尋ねました。
「和尚様、ひとつお聞きしてよいでしょうか」
「ほう、なにかね?」
「和尚様はどうしてあの娘をおぶって、川を渡してやったのですか。僧侶というのはああいうことをすべきではないと思うのですが」
「おやおや」
師匠は答えました。
「私はもうとうに娘をおろしたのに、おまえはまだ娘をおぶっていたのかね」。
